肩から着丈を詰めるという方法

お直し

こんにちは。

先日キャリアチェンジをし、洋服の世界で死ぬまで生きていく覚悟を決め、修行を積んでおります。

勤めているサルト銀座にて、お直しも、スーツのオーダーも含め、洋服の全てを学んでいます。

特に洋服の構造を知れば知るほど、なぜこの服は着心地が悪いのか、なぜこんなところにシワができるのか、といったことが分かってきて、楽しくて仕方ありません。

今回取り上げるのは、ジャケットの着丈詰めです。

私が学んで、知っていると為になると思ったことを共有します。

肩から詰めるという方法

アウターの着丈を詰める=短くするには、裾を下からカットしようと考えるのが普通です。

しかしテーラードジャケットには、その方法は万能ではありません。

と言うのも、テーラードジャケットにはボタンやポケットが付いているし、ウエスト部分がシェイプされていて、その着丈だからこそ全体のバランスが良くなるように設計されています。

それを下からカットしてしまうと、上半身の大きさは変わらず下半身だけが縮んだ、ドラえもんのようなアンバランスになってしまいます。

具体的には、ボタン・ポケット~裾までの距離が短くなったり、真ん中のウエストで絞られていたジャケットが、裾に向けて広がっていくかと思いきや途中でスパンと切られたようになってしまいます。

元の状態
裾から詰めたイメージ

詰める寸法が数ミリから1センチ程度であれば、バランスはそこまで崩れないので裾から詰めても問題ないことが多いですが、それ以上の詰め寸となると、裾から詰めるのは推奨されません。

そこで登場するのが、下ではなく上から詰める、つまり肩側から着丈を詰める方法です。

肩から着丈を詰めるには、ジャケットの肩周りの構造を一度全部外して、必要な部分をカットして、また構造を作り直す、という大工事が必要になります。

ジャケットの命である肩周りを一度壊すので、ブランドらしさが失われかねず、一般的には肩周りをいじることは良くないとされます。

何十万もかけて作ったピスポークのジャケットには、さすがに肩周りをいじる勇気は私にはありませんが、せっかく手に入れたジャケットの着丈が長すぎて着られない時、しまっておくくらいなら、直して着たいという場合もあると思います。

肩から着丈詰めのメリット、デメリット

肩から着丈を詰める方法のメリットは、ボタン・ポケット・ウエストシェイプの位置~裾までの距離が変わらず、見た目の印象の変化が少ないことです。

元の状態
肩から着丈を詰めたイメージ。

もちろん肩から4センチ5センチといった大きな寸法を詰めると、今度は逆ドラえもんになりかねないので、限度はあります。

肩から大幅に詰めると変。

しかし肩からの着丈詰めにはデメリットもあります。しかも何個か。

一つ目が、ゴージライン(上衿と下衿の境界線)の上昇。

前身頃(ジャケットの前半身)の、肩線部分をカットし、上に持ち上げることになるのでゴージラインも全体的に上に上がります。

元の状態
肩から大幅に詰めた場合

現行のジャケットは、ゴージラインが普通〜やや高めのものが多く、1.2センチ上がると、相当上になってしまいます。

一方、昔のジャケットなど、ゴージラインが元々低いジャケットであれば、むしろ上がってくれてありがたい場合もあると思います。

もう一つのデメリットが、肩幅がわずかに狭くなること。

肩の先に向けて扇形に広がっている部分をカットすることで、上端の長さは短くなり、イコールそれは肩幅が短くなることにもなります。

元の長さ
詰めた後の長さ

続いてのデメリットが、アームホールが小さくなること。

肩からカットすると肩の高さが下に下がり、それはつまりアームホールの周囲の長さが少し短くなることになります。

実線:元の形。点線:カットした後の形。

しかし、アームホールの底もカットすることもできるので、元のアームホールの大きさのままにすることも可能です。

点線のように、アームホールを底をカットし、下にずらすことも可能。

なので解決出来るデメリットです。

次のデメリットが、柄ズレです。

チェック柄のジャケットの場合、身頃と袖の柄合わせは重要ですが、肩から着丈を詰めて身頃だけ上にスライドすると、袖との柄合わせにズレが生じてしまいます。

着丈と同じくらいの寸法分、袖丈も詰めるのであれば、身頃も袖も一緒に上にスライドすることになり、この問題は解決しますが。

例外ケース:フラワーホールが無い場合

前章で、ゴージラインが下がるというデメリットを紹介しました。

例外的に、あるケースでは、ゴージラインが下がらずに済むことがあります。

それは、ジャケットのラペルに通常付いているフラワーホールが無い場合です。

フラワーホールがあると、肩から着丈を詰める場でも、ゴージラインの部分はカット出来ず、肩線しかカット出来ません。

カットしてしまうと、ゴージラインとフラワーホールとの距離が近づいてしまい、バランスが崩れるからです。

肩線もゴージラインもカットするとこうなる。
仮にゴージラインもカットすると、フラワーホールが上に来過ぎる。

フラワーホールがなければ、それを気にせずカット出来ます。

フラワーホールの無いジャケット
ラペルの裏側

しかしこれも万能ではなく、デメリットがあります。

ラペル幅が少し細くなってしまうのです。

ラペルは下に行くにつれて細くなっていますが、上からそれをカットすると、少し細くなりますよね。

下に行くにつれて、徐々に細くなっていく。

アイスのコーンを食べる時、最初は周りをかじりかじりして食べるけど、最終的には一口でパクッといけてしまうのと同じ要領です。

加えて、ラペル=下襟が細くなると、上襟とのバランスも気にしなければなりません。

上襟は変わらず、ラペルだけ細くなると、極端に言えばこうなります。

向かって右側のようになります。

なので、フラワーホールが無い場合でも、カットするのはMAXでも2センチくらいだと思います。

まとめ

テーラードジャケットは、裾から着丈を詰めるのは1センチくらいが限度。

それ以上は肩から着丈を詰める方法がある。

しかし、ゴージラインの上昇、肩幅やアームホールの縮小、柄ズレ等のデメリットもあるので万能では無い。

例外的に、フラワーホールが無い場合はゴージラインの高さを変えずに肩から着丈を詰めることも可能。

今回ご紹介したお直しは、お直しの中でも特に大変な作業で、費用もかかりますが、不可能なことではありません。

手前味噌ながら、サルトにはこういうお直しに対応できる職人さんがいることが強みだなと感じます。

これからももっと勉強を重ね、洋服への理解を深め、どんな質問にも答えられるようになることを目指します。

以上です。

ありがとうございました。

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