トラウザーズ裾丈研究

クラシックのルール研究

こんにちは。ミスターリネンと申します。

クラシックな、流行に左右されない間違いのないスーツを着たい。

そう思って日々勉強していますが、トラウザーズ(スラックス)の裾丈はどのくらいにするのが正解なのでしょうか。

私の意見はあまり入れず、クラシックスーツのプロの考えをベースに研究していきます。

正解の裾丈

結論から言います。「ハーフクッション~ワンクッション」が、最もクラシックな裾丈です。

このくらい(ハーフクッション)。もしくはもう少し長めでも良いと思います。

しかし、これはおおざっぱすぎる結論です。以下の要素によっても適切な裾丈は変わってくるからです。

a ウエスト位置の設定
b ブレイシス (サスペンダー) をするか否か
c 生地のシワになりやすさ
d 裾の処理 (シングルかダブルか)
e 裾幅は何センチか
f 合わせる靴

それぞれの要素については後ほど述べますすが、まずはハーフクッション~ワンクッションが最もクラシックと考える根拠を述べます。

スーツを着て立っているだけのマネキンであれば、ノークッションが最も綺麗でしょう。トラウザーズのクリース(真ん中の織り目)がまっすぐ下に落ち、シワ一つない状態になるからです。

しかし、人間は歩くし座るし足を組みます。歩く時も座る時も足を組む時も、トラウザーズの裾丈は、立っている時より上に上がります。そういう時にも、足が出過ぎなくて、キレイなトラウザーズのラインが出るちょうどよい長さが、ハーフクッション~ワンクッションなのです。

仮に、一生座っているだけなのであれば、ツークッション、スリークッションくらいで長めが良いでしょう。足がしっかり隠れますから。でもそんなのは無理ですよね。

別の根拠ですが、チャールズ英国王、ウインザー公、横浜「信濃屋」顧問の白井俊夫氏、株式会社インコントロの赤峰幸生さん、アトリエベルンの竹内大途さんなど、クラシックな着こなしを体現されている方々を見ても、大体ハーフクッション、もしくはワンクッションであることがほとんどです。

また、書籍の情報も参考にました。服飾評論家の落合正勝氏の「男の服装術」。(イタリアのクラシック・ファッション批評により、東洋人として初めて「クラシコ・イタリア大賞」を受賞し、著作多数。)

以下のような内容が書かれています。

また、アトリエベルンの竹内大途さんのコラム、The Bookにもこう書いてあります。

「トラウザーズの理想的な長さは、裾が靴の上にかかり、折り目が少し崩れるくらいです。」

スリーピース/ツーピースのスラックスのサイジング

a.b ウエスト位置とブレイシスの有無

a(ウエスト位置の設定)とb(ブレイシス (サスペンダー) をするか否か)は関連するのでまとめます。

採寸の際に、ウエストのどこを始点として測るべきか。

人それぞれ骨の形やおへその位置も異なるので一概には言えませんが、おへそのちょっと上にスラックスの上端が来るくらいがクラシックで格好よくなると思います。上で履けば履くほど、単純に足が長く見えます。

ブレイシス(サスペンダー)をする前提でトラウザーズを購入するなら、しない前提のトラウザーズより長めに丈を設定するとベターです。そうしないと、ブレイシスをしたらトラウザーズが持ち上がり過ぎて、裾丈が短すぎ、となってしまう可能性が高いからです。

c 生地のシワになりやすさ

トラウザーズを履いた状態で座ると、足の付け根や膝の裏にシワができます。
そうなると、ほんのちょっとですが裾の位置は上がります。

ウールなら比較的シワは回復しやすいので良いですが、リネンやコットンはシワが強く残るので、丈の長さが変わってきます(短くなります)。

シワのできやすい生地ならば、立った状態かつシワが出来る前の状態で、ワンクッションになるよう設定しておけば、シワが出来た時にハーフクッションくらいになると考えます。ウール生地と比べて、コットンやリネンは具体的に何センチ長く設定しておけば良いかという数字は難しいので、詳しい方がいたら教えてください。

リネンスーツ大好き人間の私が、分厚いヘビーリネンのトラウザーズを履いてきた経験から言うと、ウール素材のトラウザーズより、1センチ長くするので良いと思います。分厚いリネンは、シワが出来てもそこまで丈の長さは短くなりません。分厚いので重みがあり、シワがあってもある程度下に向かって重力が働いて落ちてくれるからです。

d.e 裾の処理(シングルかダブルか)と裾幅

スーツが好きな人は、タキシードなどを除いて、トラウザーズの裾をダブルで仕立てる人が多いと思います。

足元がのっぺりしないし、重さができてズボンがストンと落ちてくれるし、後々好みが変わってもシングルにできるし。(逆は布の余りの長さ的に難しいことが多いです)

私の敬愛する赤峰幸生さんもダブルが基本とおっしゃっています。

ちなみに、ダブルの折り返し幅は、3.5~4センチがクラシックの目安ようです。落合正勝さんの本にもそう書いてあるし、アトリエベルンの竹内さんもそのようにおっしゃっていました。

赤峰幸生さんは5センチを基本とされているようです。3.5~4センチの範囲から外れたらルール違反、という訳ではなく、全体のバランス、その人のスタイルによってある程度融通は効きますが、迷ったら3.5~4センチがよさそうです。

問題は裾幅です。ひと昔前の、パツパツのトラウザーズ時代は、17.18センチのものが良くありましたが、今(2024)は20.21センチくらいのものも普通に売られるようになりましたね。それでもスーツの歴史からすればやや細いくらいで、25センチくらいまでなら、クラシックの範囲に収まると思います。

落合正勝さんの本では、私物のスーツが具体的な寸法と共にいくつか紹介されており、21~24.5センチまでありました。

こちらは、裾幅24センチ、ダブル折り返し幅5センチ。

裾幅が太め(21~25センチ)なら、ハーフクッション~ワンクッションくらいのクラシックな長さが、靴に綺麗にかかって格好良いと思います。

裾幅が細め(20センチくらいまで)なら、気持ち短め、ノークッション~ハーフクッションくらいが良いと思います。細い裾幅でクッションが入る長さだと、靴を覆ってくれるのではなく、靴の履き口のところにトラウザーズが溜まってしまい、くちゃくちゃ、という印象になってしまうと思います。

f 合わせる靴

トラウザーズを購入する際、このトラウザーズはローファーとしか合わせない、もしくは紐靴としか合わせない、というように、靴まで限定するほど服を沢山持っている方も中々いないと思うので、基本は一つのトラウザーズに色んな靴を合わせますよね。

なので、合わせる靴によって裾丈は変わらず、この項目は無意味かもしれませんが、一応言及させてください。

靴も沢山の種類があるのでキリがありませんが、ここでは大きく、ローファーかそれ以外か、で区別します。ローファーだと、甲を覆う面積が比較的小さく、靴下が見える可能性が高まります。それに対し、ローファー以外(紐、モンクストラップ等)だと、甲を完全に覆っているので、少なくとも立っている状態では靴下は見えません。

そのため、ローファーの場合は、他の靴と合わせる時より、気持ち裾丈を長めに設定しても良いかもしれません。よりしっかりと足を隠すために。

でも裾幅の項目で述べた通り、細くて長いのは逆効果なので、注意が必要です。ローファーに太くて長いトラウザーズ、というのがバランスは良いと考えます。

4.5の項目で載せた写真と同じトラウザーズで、靴だけローファーに変えたもの。
この長さだと、やや短すぎると思います。靴のかかとも丸見えです。

まとめ

「ハーフクッション~ワンクッション」は、流行と関係なく、100年以上のスーツの歴史の中で導き出された、活動する人間にとっての最適解なのだと思います。

細かい話かもしれませんが、スーツはこういう奥深さがあるから楽しいんですよね。

冒頭で、「私の意見はあまり入れず」と言っておきながら、主観的になってしまったかもしれません。どうしても太くて長いトラウザーズが好きなんです。許してください。

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